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Journey of Nobel Prize for Medicine

ノーベル生理医学賞のすべてを少しずつ追う旅

主要死因の変遷 _ 2000年以後 (脳の加齢)

[project A では、疾患についての説明を軸として展開します。生命科学の知識を応用して記述できるようになることを目的に、その概要を記します。そのため、臨床的な医学アドバイスを行うものではありません。

notion: The resources on this site should not be used as a substitute for professional medical care or advice.]

2000年以後には、老化の問題が顕著化するであろう。即ち、高齢者が増加するので老化現象に随伴する疾患が顕著化するという意味である。

老化とは、加齢とも言い換えることが出来る。加齢とは、今の医学において疾患とは認識されていない。加齢とは自然現象である。疾患という言葉にはさまざまな定義があるが、どの定義を適用するにしても、加齢が疾患だと明瞭に定義された例は社会的地位を保っている医学領域の中ではひとつもない。そして今後も疾患として認識されることはないであろうから、高齢化による問題とは、医学の問題というよりは医療の問題である。疾患ではない以上、医学が学問として取り扱うことはないからである。

そうなれば、医学は加齢を疾患として研究できないが、加齢に随伴する疾患であれば研究対象にする。言葉としてもわかりやすい例は、加齢黄斑変性 age-related macular degeneration : AMD という疾患である。これは眼科において取り扱っており、加齢によって網膜の黄斑という組織が変性するので最終的に失明してしまう疾患である。AMDはwet typeとdry typeの二種類の病理があるが(1)、有病率が高いのはwet typeの方である。これは網膜へ毛細血管が新しく伸びて来るという異常な血管新生 angiogenesis がおこり、出血して老廃物を貯留させることで、組織を変性させるのである。

AMDの原因は研究されているし、日本で行われているiPS細胞を用いた臨床試験は滲出型加齢黄斑変性を対象に行われている。(2)

加齢に随伴する疾患で恐ろしいものは、アルツハイマー病 Alzheimer's dieease であろう。もしくは、認知症 dementiaであったり、特に老年における精神疾患であるかもしれない。つまり脳の機能異常や不全に関連する有病率の増加である。

海馬においては、新規に記憶される短期記憶が、後から来る次の記憶を受け入れることで消去されることが分かりつつある。つまり、海馬で記憶をするために、その組織においてニューロンのネットワークが組みかえられているのである。また一部の記憶に関しては、大脳皮質に移行されて長期記憶として保存されることがわかっている。

しかし、この記憶がどのように失われていくのか、その原因の根本的な解明には至っていない。認知症は記憶の低下を主症状としている。

免疫グロブリンの遺伝子再構成を発見してノーベル賞を受賞した利根川進は、現在はアメリカMITのPicower Institute for Learning and memoryにて記憶の研究をしている(3)。免疫学でノーベル賞まで取った研究者が、次のフロンティアとして脳科学を選択している点は興味深い。というのも免疫学と学習・記憶に関する脳科学は、まったく別の分野への転向なのである。自らのよく知る分野を離れる決断をするに足りる、知的好奇心を満たす分野が脳科学であったということである。いいかえれば、それだけ未知で複雑な部分が多すぎるのである。

現在、脳の機能低下によってもたらされる疾病でかつ罹患率の上昇しているものは、うつ病アルツハイマー病である。後者は脳の加齢によって発病していることが明らかであるが、前者についても高齢者はかかりやすい。どちらも直接の死因とならないので、主要死因のデータだけで見ると過小評価されてしまう。しかし、個人の人生にとって相当な負担となる疾患である。これらを精力的に解明し、治療方法を開発していくことが2000年以後の医学において主要課題となるだろう。

Ref.

1, http://en.wikipedia.org/wiki/Macular_degeneration

2, http://www.riken-ibri.jp/AMD/research/index.html

3, http://www.tonegawalab.org