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Journey of Nobel Prize for Medicine

ノーベル生理医学賞のすべてを少しずつ追う旅

主要死因の変遷 _ 2000年以後 (悪性新生物)

[project A では、疾患についての説明を軸として展開します。生命科学の知識を応用して記述できるようになることを目的に、その概要を記します。そのため、臨床的な医学アドバイスを行うものではありません。 notion: The resources on this site should not be used as a substitute for professional medical care or advice.] 20世紀までの主要死因は、高齢化によって駆動され、悪性新生物や肺炎が上位を占めるようになった。 今後の21世紀にはどのように変遷することになるのだろうか。これは予測の域にはなるが、私たちは今後の医学や医療の方向性をある程度は定めていかなければならないので、信頼できる予測を立てる重要性が大きい問題である。 James Watsonは、悪性新生物の問題については解決ができるとの見解を示している。がんの基本は既にわかっているのだ。 悪性新生物を解決するという事は、すなわち細胞を知るということに他ならないと主張している(1)。悪性新生物とは、細胞が無限に増殖してしまい、他の組織を圧迫してしまったり、他の組織に浸潤してしまう疾患である。これは細胞増殖の制御の機構が破綻することで発生するのである。これは、細胞分裂をコントロールする遺伝子、例えばATMやPTEN、HER2やp53などのあらゆる遺伝子が報告されていて、これらの機能が欠失することで起こる。この遺伝子の発現と細胞増殖サイクルの関連性が、DNAを分子レベルで解析する分子生物学の手法で明らかになりつつある。分子生物学は、細胞増殖サイクルのメカニズムが分子レベルで判明させられるので、細胞増殖の指令系統を分子レベルでブロックする計画が立てられる。具体的に、分子標的治療薬というがん細胞のみに著効性がある治療が可能となりつつある。 彼は「がんは対処できる寸前にある」(1)と指摘している。対処できるというのは、受け手には完治させられるという意味にもとれる。彼の予測とその理屈は信頼がおけるだろう。何故なら実際にそれが可能となりつつある。 証拠は、PROFILE 1014という国際的な臨床試験の結果である。その中でアジアというサブグループで解析した結果が、2014年の7月に行われた第12回日本臨床腫瘍学会学術集会で報告された。(2) ELM4-ALK融合遺伝子という変異が発見され、ALK-TKというタンパク質変異を明らかにされた。その治療薬がALK阻害薬クリゾチニブである。これは間野博行という日本人が主導で開発した。これが特定の種類の肺がんを完治させる可能性がある。具体的にはALK陽性の非小細胞肺がんに効果があり、例えばpfizer社がザーコリという名称で販売している薬である。 臨床試験での薬の評価基準として、薬投与から後の観察において、症状が悪化することなく、かつ生存する期間から割り出す方法が一般的である。この期間を、無増悪生存期間 progression-free survival :PFS と呼ぶ。全ての被験者のデータを合わせると、平均期間から正規分布をするはずなので、その中央値で評価するのが方法となる。そこで、薬を投与しないプラセボ placeboの群とPFSを比較したり、従来の治療法の群とPFSを比較する。 上記の報告では、クリゾチニブと比較して、従来の治療法である化学療法と比較している。細かくは、化学療法はペメトレキセド+シスプラチン35例(44%),ペメトレキセド+カルボプラチン45例(56%)であった。 無増悪生存期間は、クリゾチニブが13.6ヶ月で、従来の治療法が7.0ヶ月である。これが意味することは、新薬によって従来法よりも半年程度は症状を食い止めることが期待できる。 (2) クリゾチニブの著効は、24ヶ月以上も無増悪生存期間を持つ手段が全体の3~4割いるという点にある。この集団は、グラフの推移を見ると、20ヶ月を過ぎたあたりからずっと横ばいに存在しつづけているので、今後も減ることなく存在しつづけると予測することも出来る。ずっと無増悪生存期間が続くというのは、寛解しているということである。つまり、このALK陽性小細胞肺がんについては、ずっと元気のままでいられる可能性のある集団であり、言い換えれば完治の可能性のある集団である。 悪性新生物とは、すなわちがんの事である。日本では最近まで「癌」と標記されていたが、日本語特有の問題として不穏な雰囲気を惹起する文字であるため、厚労省の勧告によりがんと標記するようになった。日本の独立行政法人のひとつに、国立がん研究センターというものがあるが、標記はひらがなを使用しているのである。 悪性新生物は死因の最上位であるが、年齢調整死亡率で調整すると減少傾向である(3)。統計の結果からは、50年や100年単位で先を見て行くと、減少傾向が続くことが読み取れる。EML4-ALKの発見と臨床試験の結果がそれを裏付けているし、分子生物学の産みの親であるJames Watsonの知見もそれを支持している。 以上の理由から、今後の21世紀において悪性新生物は減少すると予測して良いと、私は考えている。 すなわち21世紀の医学は、分子生物学に造詣のある医学研究者を多数育成する必要がある。それぞれのがんについて分子標的治療薬を開発する駆動力を保ちつつ、対処できるがんの領域を拡大していく試みになるだろう。 Ref. 1,『知の逆転, 吉成真由美ほか, NHK出版新書, 2012』 2, 第12回日本臨床腫瘍学会学術集会(7月17~19日,会長=福岡大学腫瘍・血液・感染症内科学教授・田村和夫氏), 近畿大学内科学教室腫瘍内科部門教授中川和彦氏のプレナリーセッションの内容に拠る。 詳細はhttp://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2014/M47330111/を参照のこと。 3, 前日にも紹介した。前項もしくはhttp://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2080.htmlを参照のこと。